日本人のヘルスリテラシー
※本記事は上記URLの「日本人のヘルスリテラシーは低い」を参考に、当社の視点を加えて作成しています。
詳細な内容は原文をご確認ください。
なお、本記事の情報は一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法や医学的アドバイスを推奨するものではありません。
健康上の判断や治療については、情報を精査したうえで医療機関や専門家にご相談ください。
日本人のヘルスリテラシーを制度・教育・文化から考える
私たちが健康的な生活を送る上で、ヘルスリテラシー(健康に関する情報を探し、理解し、評価し、活用して、自分自身に合った意思決定を行う力)は欠かせない要素です。しかし、国際的な調査によると、日本人のヘルスリテラシーは、ヨーロッパ諸国や他のアジア諸地域と比較して低いことがわかっています。
日本人のヘルスリテラシーの現状
ヨーロッパ8カ国との比較では、ヘルスリテラシーが「不足」と分類された人々の割合は、EU諸国平均で47.6%なのに対し、日本は85.4%と非常に高い水準です。さらに他のアジアの国・地域と比較しても、日本の平均点は低く、総じて「ヘルスリテラシー後進国」と言える状況です。
なぜ日本は低いのか?主な要因
プライマリ・ケアの不十分さ
日本では、家庭医制度が十分に整っておらず、病気や体調不良時にまず相談できる「かかりつけ医」がいない場合が多いです。ヘルスリテラシーが高いオランダなどでは、家庭医制度がしっかり根付いており、患者は初期段階から信頼できる医師に相談しやすくなっています。
健康情報へのアクセス不足
信頼性の高い総合的な健康情報サイトが少なく、日本語での医学論文検索も制限が多いです。そのため、自分に必要な情報を簡便かつ的確に得ることが難しくなっています。
メディアリテラシーの課題
日本人はテレビや新聞といった旧来のメディアを強く信頼しがちで、インターネット上の情報には不信感を抱く傾向があります。その結果、多様な情報源を批判的に比較検討する力が育ちにくい状況です。
学校教育における意思決定力不足
従来の教育は「正しい答え」を覚える傾向が強く、「情報を基に自ら考え判断する力」を育む機会が十分ではありませんでした。そのため、健康に限らず、個人が主体的に意思決定するスキルが不足しがちです。
文化的背景
集団の調和を重視し、個人が積極的に意思決定を行うことを避ける風潮も影響しています。自ら情報を吟味して判断する習慣が根付きにくい文化的傾向が、結果的にヘルスリテラシーの低さに結びついています。
ヘルスリテラシー向上について
本来、ヘルスリテラシー向上は「受け手自身が健康情報を批判的・主体的に理解し、意思決定できるようになること」を目指すべきであり、「医療の専門家や情報発信者側が望む行動を、根拠の十分でない主張で促す」ことではありません。
ヘルスリテラシーの向上には、多面的な視点が必要です。たとえば、以下のような要素が求められます。
根拠の明示
どのような研究に基づいてその推奨を行っているのか、その介入がどの程度の効果を持つのか、信頼できるデータやエビデンスを明示することが必要です。
リスク・ベネフィットの提示
健診やワクチン、生活習慣改善の推奨は、それによって得られる恩恵(早期発見、予防効果)だけでなく、過剰診断・過剰治療、誤差や不確実性、費用対効果など、デメリットや制約についてもバランスよく提示すべきです。
情報源と透明性
発信元が医師会のような専門家団体であることは、ある程度の信頼につながりますが、広く合意がとれたガイドラインや国際基準、学術的なコンセンサスなどを根拠として示し、透明性を確保する必要があります。
受け手の主体性を尊重
ヘルスリテラシー向上とは、受け手が自ら情報を評価し、選択できる力を得ることです。そのためには、多角的な情報提供(「こういう理由で推奨している」「逆にこういう批判や異論もある」)を行い、受け手の批判的思考を支援する姿勢が求められます。
要するに、「健康な選択」を押しつけるのではなく、「なぜその選択が望ましいのか、どんな利点・限界があるのか」をオープンかつ公平に示し、受け手の判断力を育むことこそが、本来のヘルスリテラシー向上のゴールです。それを怠り、表面的な説得や推奨にとどまれば、受け手はパターナリズムや恣意的な誘導を感じ取り、かえって情報への不信や反発を招く可能性があります。
情報発信側はより証拠に基づいた公正な情報提供と対話的なアプローチを目指す必要があるといえます。
専門家と一般市民の双方向的な協働が不可欠
ヘルスリテラシー向上を目指すには、専門家と一般市民の双方向的な協働が不可欠です。これまでは医師や専門家側が「指導する」「教える」という一方向的な情報提供に偏りがちでしたが、本来のヘルスリテラシーの目標は、受け手である市民が自らの健康や医療に関する情報を主体的に扱い、合理的な意思決定をできるようになることです。そのためには、市民の視点やニーズ、懸念を反映し、納得感のある情報発信を行うことが求められます。
専門家と一般市民は「情報発信者と受け手」以上の関係となり、情報の質や使い勝手の向上に対して共に責任を負い、協力し合うことが理想的と言えます。