AI時代における「手触り」のデザイン —グラフィックデザインの依頼が増える理由
最近はAIツールの進化がめざましく、「いよいよ人間のデザイナーはいらなくなるのでは?」なんて声を耳にすることもあります。
ところが実際には、私のもとに来るグラフィックデザインの依頼がむしろ増えています。今回はその背景にある「AIでは再現しづらい要素」や、「なぜグラフィックデザインの価値が高まっているのか」について考えてみたいと思います。
書道とグラフィックデザインの共通点
先日、書道とAIの話題になったときに「タイプフェイスとしてのフォントの形は再現できても、筆跡まではなかなか真似できない」という話をしました。その瞬間、「これはグラフィックデザインにも通じる」と強く感じました。
書道には“動き”や“筆圧”があるように、グラフィックデザインでは“目には見えない心地よさ”や“絶妙な余白”があり、こうした目に見えない要素が、最終的な魅力を左右します。
レイアウト一つとっても「案外」AIには難しい
「レイアウトぐらいAIで自動化できるでしょ?」と思う人もいるかもしれません。確かに、一定のパターンやセオリーはAIでも簡単に学習・模倣できますし、セオリーに沿った“作業”的な配置は、人間よりスピーディにこなせます。
でも、実際に依頼を受けてデザインを組み立てるときは、もう一歩踏み込んだ視点が求められます。クライアントの要望やブランドの雰囲気、ユーザーが感じてほしい印象などが複雑に絡み合い、数値では割り切れない微妙な「調整」が必要になります。
特に印刷物やロゴのような静的なデザインは「案外」難しいです。
余白の取り方や視線の誘導
- ここで少し文字を小さくするだけで、視線がすっと流れるかもしれない
- もう少し余白を取ることで、ブランドイメージが「高級感」に寄るかもしれない。
こうした微妙で繊細な差が、最終的にはデザインの「印象」に大きく影響します。
依頼が増えている背景 — 「AIの時代に人間の手仕事が際立つ」
その背景としては、以下のようなことが考えられます。
AIとアナログの“差”が逆に目立ってきた
世の中でAIが当たり前になってくると、まだ最後の1mmの質を詰めきれないことが逆に際立ってきます。また人間ならではのアナログ感や「手触り」のある表現が新鮮に映ることもあるでしょう。
ブランドは「魂のこもった」デザインを求めている
顧客に長く愛されるブランドは、単なるパッケージやロゴだけではなく、そこに込められたストーリーや熱量を大切にしています。「人の手による緻密な組み立て」が感じられるデザインには、AIが一足飛びに真似できない“らしさ”や“愛着”が宿るのだと思います。
デザイナーはコンサルタント的な役割も担っている
グラフィックデザインの依頼をする際、クライアントは単に「デザインそのもの」ではなく、“どうすれば自社の世界観やメッセージを伝えられるか”という戦略面まで相談してくることが多いです。
- ターゲットの設定や市場分析
- デザインコンセプトの立案
- 他媒体との連動施策
こうした領域はAIがデータを分析できても、まだ人間の洞察力とコミュニケーション力がものを言います。
AI時代にデザイナーが意識したいこと
グラフィックデザインの需要が高まっているとはいえ、AIを上手に使いこなせるデザイナーが今後ますます求められるのは確かでしょう。効率化できる部分はAIに任せ、人間しかできない部分に集中する—これがポイントになりそうです。
発想・アイデア出し
AIから生成されたパターンをヒントに、新しい表現にチャレンジする。
細部のこだわり
レイアウトの最終仕上げなど、微妙な調整を“アナログの感覚”で行う。
対話とストーリーテリング
クライアントやユーザーとのコミュニケーションを大切にし、デザインに“物語”を乗せる。
人の手がつくるデザインに惹かれる
AIが普及するにつれ、ある程度のデザインはある意味“機械的”に行える時代になりました。けれど、だからこそ“人の手”が生み出すデザインの魅力が際立ってきたのも事実。書道における筆跡のように、グラフィックデザインにも人間だけが演出できる「ぬくもり」や「バランス感覚」があります。
最近ますます増えているデザイン依頼の背景には、この「人間ならではのアナログ要素」への再評価があるのではないかと感じています。今後もAIを上手に使いながら、それでも最後の仕上げは“人の手”によって磨き上げられるようなデザインをつくっていきたいですね。