「魔女の宅急便」ニシンのパイから見る仕事観と成長

 
スタジオジブリの『魔女の宅急便』では、13歳の魔女・キキが「宅急便」の仕事を通して成長していきます。その中でも特に印象深いのが、映画オリジナルエピソードとして描かれる「ニシンのパイ」の配達です。このエピソードにはキキが「仕事」をどのように捉えているか、そしてどんな思いで行動しているかが如実に映し出されています。

配達が終われば仕事は完遂—しかし、それ以上を目指す

まず、キキの本来の仕事は「荷物を指定の場所まで無事に届けること」。パイを届け、受け取ってもらえた時点で「宅急便」としての業務は完了しているといえます。仮に孫娘がパイを捨てようが、嫌いと一言いうだけだろうが、仕事上はそこで区切りがつくはずです。
ところがキキは、それ以上の行動をとります。老婦人宅でオーブンを温めるために薪を集める手伝いをし、嵐の中でも一刻も早く届けようと奮闘します。これは宅配業者の仕事の範囲を超えていると言えるでしょう。けれどキキにとっては、ただ配達するだけでなく「依頼人に喜んでもらう」ことが大事だったのです。「空を飛ぶ」魔女としての能力を役立てたい、相手のためにひとつでも多く力になりたい—そうした思いやりや使命感が行動を突き動かしていました。

真心を尽くしても報われない経験

しかし、いくらキキが真心をこめても、受け取り手の孫娘は「このパイ嫌い」と冷たくあしらいます。キキにとっては、「頑張って協力した成果が評価されなかった」という挫折感を味わう瞬間でした。それは仕事上の失敗というよりも、相手への思いやりごと否定されたような、心情的なダメージが大きかったと言えるでしょう。
一方で、老婦人は後日ケーキを贈り、キキの誠実な働きぶりに感謝の気持ちを示します。結果がどうあれ、キキが頑張った過程や人を思う姿勢がきちんと見えていたからこそ、こうした感謝が返ってきたわけです。ここに、「結果そのものよりも、どんな思いで取り組むかが仕事の価値を左右する」という逆説的なメッセージが浮かび上がります。

キキにとって仕事とは?

このエピソードを通じて見えてくるのは、「仕事」がキキにとって単なる生計手段ではなく、自分の存在意義を確かめる手段であり、人と人とを繋ぐ場でもあるということ。依頼人が喜ぶ顔を見たいからこそ、あえて職域を超えたサービスや気配りをし、同時にその反応に一喜一憂します。結果的に思うような反応が得られなかったとき、キキは深く落ち込みもしますが、それが次の成長を促していくのです。

職域を超える情熱が、人としての成長を促すと言うメッセージ

「ニシンのパイ」のエピソードは、仕事としては完遂しても、相手の心には響かない場合もあるという厳しい現実を描くと同時に、それでもなお相手のために尽くそうとする姿勢が、やがては思わぬ形で評価されることを示唆しています。
  • 配達の完了で仕事は終わり
  • しかしキキは喜ばせたい思いから範囲外の行動をとる
  • 相手から拒絶され、一度は落ち込むものの、依頼人の感謝がキキの行動を肯定
  • 仕事を通じて社会との繋がりと成長を実感する
結果が全てではないものの、結果が奮わなければ傷つくのも事実。そこで大事なのは、「心がけ」や「思いやり」が無駄にはならないという視点です。一度は不本意な形で終わったとしても、その真剣さと誠実さは、誰かに見届けられ、新たな一歩を照らしてくれる。本作はそんなメッセージを、私たちに伝えているのではないでしょうか。
ところで美味しいのでしょうか。ニシンのパイ。
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