メールでリンク → 自分のメールを入力?それって本当に安全?

よくある仕組み

ファイル共有や資料閲覧のとき、
「相手のメールにリンクを送る → 相手がリンク先で自分のメールアドレスを入力してダウンロード」
という流れ、見たことがありませんか?
ぱっと見は“二重チェック”に見えますが、セキュリティ効果はほとんど増えていません。
理由はシンプルで、どちらも同じ受信箱に頼っているからです。

一見、本人確認っぽい。でも…

①送信者がAさんのメールにリンクを送る。
②Aさんがメールを開いてリンクをクリック。
③Aさんが自分のメールアドレスを入力。
④ワンタイムパスワードが届く。
──と聞くと、「メールを知っていて、しかも受け取れる人だけが入れる」ように思えますよね。
でも分解すると、こうなります。
  • ①の時点で「その受信箱にアクセスできること」はもう前提になっている
  • ③の“メール再入力”は、メールを“知っている”だけの話で、本人確認にはならない
  • ワンタイムパスワードがメールで届くなら、結局同じ受信箱に依存している。二段階でも二要素ではないのです。

どこが弱いのか

  • 実質的な本人確認になっていない
    • メールアドレスは誰でも調べ得る情報。知っていることと本人性は別問題。
  • 手数だけが増える
    • リンクを開いて、再入力して、ワンタイムパスワードを待って……。体験の割に守りは強くなりません。
  • 転送や共有受信箱に弱い
    • リンクが宛先メールに紐づいていない実装だと、転送された人でも自分の受信箱で完了できてしまいます。
      仮に照合ありでも、元の受信箱が共有・転送されていれば崩れます。

「まだ意味がある」とすれば?

「誰でも開けるリンク」だけど“名乗り”を残したいときくらいです。
入力されたメールは記録としてログに残せますが、本人かどうかまでは保証できません。

安全そうに見える≠安全

目的達成できる?コメント
本人確認同じ受信箱に依存。二要素ではない。
なりすまし防止✕ / △実装次第だが根本は変わらない。
アクセス記録“名乗り”のログ用途ならあり。
利便性手間が増えるだけ。
セキュリティ効果“二段階”でも二要素ではない。

添付ファイルとの違いは?

ここまでの仕組みを見て「それなら、添付ファイルと大差ないのでは?」と感じる人もいるでしょう。
実際、セキュリティの本質的な強度という点では、ほとんど同じです。

共通点:どちらも“同じチャネル”の中で完結

観点メール添付メールリンク+メール再入力
伝達経路メール本文メール本文
アクセス制御受信者の受信箱受信者の受信箱
認証強度メールを受け取れることメールを受け取れること
転送リスク転送先でも開ける転送先でも開ける
どちらも「メール受信権限がある人」しか見られない、という一点に依存しています。
つまり、メール受信を本人確認要素として使っている
この点では、リンク方式も添付送信も同じチャネル内でのやり取りです。

違い:管理面でのメリット

一方で、運用や管理の面ではリンク方式の方が便利な場面もあります。
観点添付ファイルメールリンク+入力
ファイルの取り消しできないリンクを無効化できる
アクセス履歴取れないログが残る(誰が/いつ)
内容更新再送が必要同じリンクで差し替え可能
容量制限メールサイズに依存サーバー側で管理可能
つまり、セキュリティを強化する仕組みではなく、運用を柔軟にする仕組みとして意味があります。

セキュリティ強度は変わらない

  • メールアカウントを乗っ取られれば突破される
  • メール転送でも他人が閲覧できる
  • 本人確認は成立していない(受信できることしか確認していない)
これらの点は添付送信とまったく同じです。
つまり、「添付ファイル+操作ログ付き」と考えると実態に近いでしょう。

リンク+メール入力方式 = 添付ファイルの管理性を上げただけの仕組み

セキュリティを高める目的には向きませんが、
アクセスの可視化・無効化・更新といった“運用上の柔軟性”を得る手段としては有効です。

本当に安全にしたいときは?

“チャネル”ではなく“要素”を変えるのがポイント。
例としては、パスワード+認証アプリ(TOTP)や物理キー、あるいはパスキーなどの異種要素の組み合わせです。
メールはNISTの最新ガイドラインで認証強化用チャネルとしては不可とされています。

参考

  • OWASP:多要素認証は“異なる種類の証拠”を組み合わせること
  • NIST SP 800-63B-4(2025年版):メールはアウトオブバンド認証に使用不可。確認コードのアドレス確認用途は別扱い