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医療分野のメディカルデザインディレクター(前編)

私は自身の肩書きを「医療分野におけるデザインディレクター」としております。少し珍しい肩書で、その概念を明確に定義した方はいません。デザインディレクターという概念について、私が考えていることを話したいと思います。

業界におけるグラフィックデザイナーの区分け

まずグラフィックデザイナーはおおまかにアートディレクター、デザイナーに区分けされます。AD、Dと略します。アートディレクターがデザインにおける管理職で上級職、デザイナーが下級職というイメージがありますが、これはデザイン業界から言わせると「どちらが上、どちらが下ということではなくて役割が違う」ということになります。ただし一つの案件に対して、デザイナーの数よりアートディレクターの数が多いということはまずありません。希少性(能力ではなく)は、アートディレクター>デザイナーと言えます。

同様に、クリエイティブディレクター(CD)という概念もあって、こちらはコピーライティングやデザインも含め、webなど多様化した「クリエイティブの方向性全体に携わるディレクター」です。クリエイティブディレクターにはアートディレクターから成る人、コピーライターなどその他のクリエイティブから成る人もいますが、絶対数ではコピーライターから成る人が多いと言えます。

アートディレクターという概念の誤解

私個人は独立後、所謂アートディレクションとデザイン業務を兼ねてやっておりましたが、名刺の肩書きは「グラフィックデザイナー」としておりました。理由の一つは、一般の方に「アートディレクター」と名乗ってもあまり意味がないと感じていたためです。ADというと映像業界のアシスタントディレクターの方が認知度が高いようです。

そのため業界内の人間からは、「私がディレクションをやります」と話すと「あっ、ディレクションもできるんですね」と言われたりしました。これは通常、アートディレクションができる人間は肩書きに「アートディレクター」と入れるのと、「デザイナー(役職)」と「グラフィックデザイナー(職業)」という概念を混同しているためだと思われます。個人的には、業界内ではアートディレクターと名乗った方が通りがいいと思いますが、世間一般には伝わりにくい名称だと思っています。

業界の中にいると慣れてしまいますが、極端な話、DTPソフトが使えれば誰でも「アートディレクター」、ちょっとしたアイディアがあったり管理職ならば「クリエイティブディレクター」と名乗ってもいいじゃないかというのが現状で、名乗っている人たちも、役職についてぼんやりとしたイメージしか持っていません。また、プロダクトやグラフィックなど領域を横断するようにデザインする人は単純に「デザイナー(職業)」と名乗るケースもあります。こうやって説明していくと、建前や見栄も入り混じって、曖昧な概念なのです。

一般の方がデザイナーを選ぶ際に注意したいのは、少なくともアートディレクターだからすごいとか、クリエイティブディレクターだからすごい、ということは全くないということです。逆にその「よく分からない概念」であることを利用しているだけということがあります。少なくとも、そのもやもやとした業界用語を説得力のある形で説明できない人は論外です。そもそもの問題は、日本において「アートディレクター」という輸入概念が少し誤解されているからではないかと思います。

アートディレクターはプレーイングマネージャーではない

野球やサッカーなどを例に考えるとわかりやすいと思いますが、アートディレクターとは監督する人のことであり、自分で手を動かすことは本職ではないのです。スポーツにおいてはプレーイングマネージャーはごく一部の例外を除いて成立していません。これは頭を動かす人が手や身体を動かすと、客観的に対象を見ることができなくなるからです。日本のデザイン界にはプレーイングマネージャーがたくさんいて、なおかつ世界的にみて技術レベルはとても高いのですが、その反面コミュニケーションとコンセプトワークが苦手(端的に言ってプレゼンなどは人任せ)という一面を持ちあわせています。

また伝統的に徒弟制度的な側面が強く、デザイナーという「黙って手を動かす職人」の中で出世してアートディレクターになるという風潮があるので、「ついつい」自分で手を動かしてしまうアートディレクターがたくさんいて「最近自分で作っていない」と嘆きます。しかし、概念的にはアートディレクターはデザインを効果的かつ効率的に処理する「ビジネスマン」としての側面から、その能力を図られるべきものであり、自分で制作に携わることが本職ではないのです。しかしアートディレクターがデザイナーと渾然一体となってしまい、その役職名が業務内容を正確に伝えていないのが現状です。

デザイン業界における便宜的なカテゴライズ

一方で組織としては便宜上、上下関係をつける必要があります。これまでの話をふまえると、デザイナー=コピーライター<アートディレクター(Webディレクター)<クリエイティブディレクターとなります。クリエイティブに上下関係はないという話もありますが、そもそも会社組織における便宜的なものにすぎません。

そしてこの図式から行くとコピーライターからなってもクリエイティブディレクター、デザイナーから出世してもクリエイティブディレクターです。しかし、デザイナーから成立するクリエイティブディレクターと、コピーライターなど別職種から成立するクリエイティブディレクターとは当然別物と言うべきです。著名なデザイナーの中にも、肩書をクリエイティブディレクター・アートディレクターと併記する例がありますが、業務内容に対して既存のカテゴリが古くなっている、あるいはデザイナーの業務が多様化している証の一つと言ってよいでしょう。
icon-link医療のデザインディレクターという仕事(後編)

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