Categories: Surviving Design

最初の打ち合わせをしている最中に、もうアイディアは出ています

デキる人は仕事が早いーこれはデザインにおいても例外ではありません。

一流のデザイナーはほぼ全て「自分は仕事が無茶苦茶早い」と考えています。また「最初の打ち合わせをしている最中に、もうアイディアは出ている」と言う話を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、別に超一流の天才デザイナーでなくとも本当です。

時間がないから、予算がないから、いいアイディアが出ないーこれはデザインにおけるアイディアというものの捉え方を、本質的に見誤っています。若い頃はそれもいい経験ですが、それではいつまでも一流にはなれません。デザインとは本質的に「制約と制限の中にあるもの」だからです。

アイディアと時間の因果と相関

一般的に制作のクオリティと時間の関係は、以下のように直線的に比例するイメージをされていると思います。

これは半分くらい当たっておりますが、半分はハズレです。

アイディアと時間には相関関係はあるかもしれませんが、因果関係はありません。私は「雑然と頭の中にあるものが、ある瞬間にガガッとまとまる」というのが本質だと思います。PCに向かってマウスをコチコチと押しているのは、デザインという知的な作業ではなく、単純な機械的労働をしているようなものです。

よく「アイディアが頭に降ってくる」と言いますが、それより私は釣りに例えて考えております。

釣り糸を垂らす間は、何となくぼーっとしたり、違うことを考えたりする余裕もあります。ただ魚が引いたら、その瞬間に竿を上げなければなりません。寝転んだり遊びに行ったりできないのはもちろんのこと、どこか常にスイッチを入れておく必要があるのです。

アイディアを出す感覚は、それとよく似ています。全く関係のないことを「あえて」やったりしながらも、何となくそのことを頭の隅に置いておくのです。一度、意識の上では完全に忘れてしまえるとよいでしょう。そして、手の着けようもないほど複雑に思えたパズルのピースが、ある瞬間にとてつもない早さでまとまるのを「待つ」のです。

手を動かす速度より速くやってくるのが、本当のアイディア

アイディアはやってきた瞬間にまとめなければなりません。それは感覚的には「イメージの完成度に手が追いつかないくらい」の速度です。変な例えですが、手を動かしながらも手を動かす時間すら惜しまれるような感覚です。アイディアというものは本質的に完成度の高さの問題ではありません。逆に完成度が低くても伝わるのがアイディアなのです。だから、私などは手を動かしている時間はどんどん短くなってきました。

プレッシャーがかかる大きな仕事のとき、時間がないとき、ついついPCに向かってコチコチとマウスをクリックして完成を急いでしまいますが、そうではなく、まずじっとするのです。鉛筆などラフを描くのもとても良いことです。言葉で説明するより描いてしまった方がずっと早く伝わることがビジネスにはたくさんあります。絵がうまい必要は全くなくて、むしろ完成度が高くなっては逆効果です。あくまで「素早く」「簡単に」アイディアとして成立させなければなりません。

イメージの原型はシンプルであることが重要。凝ってはいけない

これは訓練すれば誰にでも出来るものだと思います。私も意識していたら、いつの間にかそういう考え方になっていたという感じで、逆に10代、20代のうちからそういった経験を持つ人の方が少数派ではないでしょうか。ある種の「訓練された思考法」とは言えますが、絵が上手いとか下手とか全く関係なく、逆にデザイナーを名乗っている人でも出来てない人は結構います。技術的に優れているがゆえに、こういった思考法とは全く無縁ということもありうるのです。

イメージを遊ばせるということ

冒頭に「最初の打ち合わせでもうアイディアは出ている」と言いました。より正確には、最初の打ち合わせで何も出ないようでしたら、その時点でどこかしらプロセスに問題がある可能性すらあるということです。「一番最初が一番肝腎」と言えます。

アイディアは非常に具体的である場合もあれば、言葉にして伝えるのが難しいくらいのささやかな「芽」であることもあります。その際にはなるべく、その仕事に対するインプット=情報を増やすことです。しかし慌てて内容をまとめたり、結論を急いでは決していけません。それらを頭の中で「何となく遊ばせる」のです。

そういったものを心の中で「育てる」ため、ぼーっとする時間も必要です。経験を積むと、それにかかる時間もスケジュールに合わせて調整ができるようになってきますし、「別の仕事の合間に別の仕事のアイディアが思いつく」という離れ業もできるようになるでしょう。仕事が出来る人には仕事が集まります。忙しい人がさらに忙しくなって、時間がないはずなのに、ますますデザインの精度を高めていくのはこういった理由があります。

時々困るのは、「時間としてこれくらい経っているのだから、これくらいは出来ているだろう」という見込みで、イレギュラーなタイミングで突然「見せてくれないか」と言われることです。

私などは大げさに言えば10日時間があったら、考えている時間は9日、手を動かしているのは1日、といった具合です。なので、9日目だから9割出来上がっているわけではありません。機械的な作業(もう方向性が固まっているレイアウトなど)はそういった目安でもよいのですが、特にアイディアが求められる場合はそうもいかないのです。イメージとしては、下記が近いと言えます。

点線がチェックのタイミングで、そこに向かって逆放物線に上昇していき、考えを擦り合わせて一度バラします。それを素早く繰り返すことによって精度と質を上げていくのです。肝心なことは「待つこと」です。釣り糸を垂らしている最中は何が釣れるかわからず、またそれが釣りの愉しみの一部でもあるのです。

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