私たちの意識はどこにあるのかと聞かれて、多くの人は頭を想像します。何人かは、胸のあたりに「心」の存在を信じるかもしれません。
そもそも意識とは一体何なのか。これだけ科学が発達した現代でも明確な答えは見えず、あるいはその根本的な問いを置き去りにしたままのようです。
「意識はいつ生まれるのか 脳の謎に挑む統合情報理論」(ジュリオ・トノーニ (著)、マルチェッロ・マッスィミーニ (著)、花本 知子 (翻訳)/亜紀書房)はその問いに挑む医者、神経生理学者によって書かれた本です。
「意識」という非常に身近なものがいかに不可解なものであるかを前半部分で解説し、後半は「意識を生みだす基盤は、おびただしい数の異なる状態を区別できる、統合された存在である」という統合情報理論を中心に打ちたて、それを裏付けるような形で進みます。
著者も述べているとおり、最新の医学・医療的な知見を基盤にしつつも、それを羅列するような専門書ではありません。原著はイタリア語ですが、平易な日本語に訳されており読みやすいと思います。哲学的でありながら直感的にも納得できる、一種の謎解きのような感覚で読める本でした。
アポロ計画の宇宙飛行士たちが経験した、月から見た地球が親指一本に隠れることを知ったときに感じる「めまい」。それは医学生が初めての解剖実習で、かつて広大な宇宙を宿していた大脳を手のひらにのせた時に感じる衝撃に相当するのではないか。
「およそ『意識の科学的説明』の名に値するものは、データや数字で証明しうるのみならず、感覚的に納得でき、腑に落ちるものでなければならない」
私の仕事も実学を基盤として、直感と少しながらの想像力を必要とします。その点において自分の仕事と共通する部分がある…などと言うと厚かましく、知り合いの先生にもお叱りを受けそうですね。