地球が丸いということを確かめた人はほとんどいないように、自分の体の中に心臓があるという事実を確かめた人もまた少ない。
多くの人は心臓があることを「情報」として知っていて、「事実」として知っているわけではないのだ。
そもそも五感を通して、我々に伝わるものは全て豊かな「情報」なのだから、どこからが「事実」となるのだろうか。
みぞおちに手を当てると、静かな鼓動を感じることができる。
他人の胸に耳を当てると、脈打つ鼓動がきこえる。
でも、その鼓動の正体は、想像しているものとは全く違うものかもしれない。
胸をパカッと開いたら、銀色の歯車が重なり合って、ぜんまい仕掛けでコチコチと動いている可能性もゼロではないような気がする。
実際のところ、身体は繊細で奇跡的なバランスの機械であり、その奇跡のまさに心臓部というわけだ。
心臓は英語でheart、そして心もheartだ。
heartは臓器であり、なおかつ心でもある。
繊細な機械であり不可視の心であり、それを表す記号だ。
心と身体の合一、情報と実体、生命の機械的なるもの、そして生死や我々の中に直接おこる喜びや悲しみを表象している。
体の中に拳より少し大きい、心臓とよばれる繊細な、生命もしくは機械の中枢があって、ドクッドクッと脈打っている。
その奇妙さを想像することで、生命ひいては人間の存在が奇跡的であり、だからこそ有限であることを感じることができる。
自分の心臓が動くおかげで、自分や他者という存在、世界を認識できるのだから、自分の心臓と他者の心臓は、同じ臓器でありながら決定的に違う。
精神と身体は別物で、臓器と心は互いに支え合いつつも交わることのない、二重の螺旋のようだ。
生命、機械、心。そして、その曖昧な理解と記号、それが象徴するもの。
人間が乏しい知覚で捉えた徴であり、貧しくも豊かな想像力の、ささやかな贈り物。
生命に関わる情報を暫定的にでも可視化する。
その理解の仕方は一通りではなく、曖昧で捉えどころがない。
【photo by Mugifumi Akimoto】

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