お仕置き屋
ある夜のこと、ネオンが煌めく街で私は友人たちとのパーティーに参加していた。会社の経営は順調で、忙しい日々を過ごす中での貴重なリフレッシュだった。音楽と笑い声に包まれた時間はあっという間に過ぎ、気づけば深夜を回っていた。
帰り道、ふとポケットに手を入れると、財布もスマートフォンもないことに気づいた。焦って会場に戻り探してみたが、どこにも見当たらない。疲れと不安が押し寄せ、途方に暮れながらポケットに残された小銭で近くのカフェに立ち寄ることにした。
カフェに入ると、店内は静かでほとんど客はいなかった。コーヒーを注文し、席に着くと、隣のテーブルに座るスーツ姿の女性がこちらを見て微笑んだ。知的で落ち着いた雰囲気を持つ彼女は、まるでこちらの心情を見透かしているかのようだった。
「何かお困りですか?」彼女は柔らかな声で話しかけてきた。
「ええ、財布もスマホもなくしてしまって。大事なデータも入っていて困っているんです」
「それは大変ですね。もしよろしければ、お手伝いできるかもしれません」
彼女は黒い名刺を差し出した。そこには金色の文字で「お仕置き屋」とだけ書かれていた。
「お仕置き屋?」
「はい。私たちは特定の問題を解決する専門家です。もちろん、それ相応の報酬はいただきますが」
「報酬というと?」
「詳細はお話できませんが、成功報酬として高額な費用が発生します。ですが、あなたなら問題ないでしょう」
彼女はそう言って微笑んだ。なぜ私を知っているのか、不思議に思ったが、それ以上問い詰める気にはなれなかった。
「犯人はあなたの友人です。お仕置きを望みますか?」
驚きと混乱で言葉が出なかった。友人が犯人?
「どうしてそんなことがわかるんですか?」
「私たちは情報網を持っています。ご依頼いただければ、迅速に対処いたします」
迷いながらも、裏切られた怒りが湧き上がった。「お願いします」
「承知しました。それでは契約を結びましょう」
彼女はタブレットを取り出し、契約書を提示した。内容には高額な報酬と秘密保持の条項が記されていた。私はサインをし、彼女は満足げに頷いた。
その瞬間、カフェの奥から数人の若者が現れた。派手な服装で少し荒々しい雰囲気だった。
「彼らは私のチームです。これから仕事に移りますので、ご安心ください」
翌日、彼女から連絡があった。「お仕置きは進行中です。こちらにお越しください」
指定された場所は都会のビルの一室だった。部屋に入ると、大きなモニターがあり、そこには友人の今井が映し出されていた。彼は薄暗い部屋で怯えた表情を浮かべていた。
「何をしているんですか?彼に何をするつもりですか?」
「ご安心ください。彼にあなたの苦しみを少し理解してもらうだけです」
画面の中で、若者たちが友人に近づき、何かを囁いた。友人は青ざめた顔で何度も頭を下げている。
「これで彼も二度とあなたを裏切ることはないでしょう」
「でも、これはやりすぎです。解放してあげてください」
彼女は少し驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「わかりました。あなたのご要望ですから」
今井はその後、無事に解放されたようだった。しかし、彼は私の前から姿を消し、連絡も取れなくなった。
数日後、彼女から最後の連絡があった。「これで契約は終了です。ご満足いただけましたか?」
「正直、わかりません。ただ、もう二度とこのようなことはしたくない」
「賢明な判断です。では、失礼いたします」
お仕置き屋―彼らは高額な報酬と引き換えに、闇の中で動く存在。彼らに頼ったことで、私は自分もその闇に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
夜の六本木を歩きながら、ネオンの光がやけに冷たく感じられた。信頼していた友人の裏切り、そして自分が選んだ復讐。その重みが胸にのしかかる。
これで本当に良かったのだろうか。自問しながら、私は夜の闇に消えていった。