近年、様々な形でデザインが、広く一般に流布する概念として捉え直され、海を超えたベンチャー企業から日本の大企業までデザイン思考なるものを導入し、イノベーションの種を模索しております。デザインは企業を内部から改革し、作業プロセスを根本から見直す契機として捉えられているようです。
しかし猫も杓子もデザインと言っていると、怪しく思えてくる方もきっといらっしゃると思います。何を隠そう、デザイナーである私もその一人です。空虚な言葉が一人歩きをして、中身は空っぽ、高いお金をとる道具にすぎないのではないか?とか。
そもそもデザインとは、一体なんでしょうか。
人によってイメージは様々だと思いますが、様々な方のお話を伺うと一般的にどのように捉えられているのか、何となく輪郭が見えてきます。
綺麗でお洒落なレイアウトと色使い。
「人とは違う」アーティスティックな表現。
派手で人目を引くもの。
そのどれもがデザインが持つ機能の一つですし、そういったものを求めて弊社に連絡をくださる方もいらっしゃいます。しかし、それらが自分たちの業界や仕事には無縁で関係ない、と考えている方もまた大勢いると思います。
それはそれで実に正しい評価です。派手であること、綺麗であることはデザインの本質的な機能ではないからです。綺麗にレイアウトされていれば人に伝わるわけではなく、派手な見栄えであればお客さんが増えるわけでもありません。実は、誰もが知っていることですね。
デザインとは、情報を整理することです。
あなたが「何を言いたいのか」「社会に対してどのような価値を提供していくのか」を自分できちんと把握することです。長所と短所を把握し、情報を「きちんと分けて考える発想」なのです。完成した広告やWebサイトというより、その考えるプロセスこそがデザインそのものです。
その意味で、デザインはアートやファッション業界、一部の大企業のものではなく、町の小さな個人事業主から公共施設まで広く一般に必要とされることです。
野菜を売るなら、自分の野菜が他のものと何が違うのか、かんがえなければなりません。産地でしょうか。栽培方法でしょうか。もしかしたらお店の立地や営業時間、適正な価格設定かもしれません。他にもあなたの素敵な笑顔は、お店の大きな営業の武器となっているかもしれません。でも、それだけではあなた自身が何者なのか、わからなくなってしまうときがあるのではないでしょうか。自分の長所と短所を客観的に把握すること―それが情報をデザインする本質です。
大きな会社でも経営方針に迷いやブレがあると、それは広告やブランドにもよく現れてしまいます。
広告で商品が売れることはないと思う方は結構いらっしゃいますが、広告で商品が売れなくなることも十分有り得るとまで考えられるでしょうか。
自分の信じる道を突き進む会社は、やはりコンセプトが明快で、デザインを頼まれる方もわかりやすいです。ただ、そんな人達でも自分の道に迷うことはしばしばありますし、ときには迷子になってしまうこともあります。
あなたがもしデザイナーにアーティスティックな表現を期待するなら、デザイナーはある程度応えるでしょう。
綺麗でお洒落なレイアウト、得意ですね。とにかく派手に力強くしたい!もちろん出来ます。ただ、それらはデザイナーにとって基礎能力というべきもので、エンジニアリングやオペレーティングと同じように知識であり技術の範疇です。それが出来なければ話にならない、スタートラインに立つための能力です。
あなたに迷いがない時は、それだけで大丈夫です。「こういうものがほしい」と方向性を伝えてくれれば、デザイナーは全力でそちらへ全力で走ります。
ただ迷子になったときデザイナーが提供するべきものは、「あなたは何者なのか」「その製品(サービス)は何であるのか。誰に向かっているのか」という本質的な問いであり、お客様と一緒に答え(=コンセプト)を探すコミュニケーション能力なのです。
参考
日立や富士フイルムは何をしたか デザイン思考の組織改革力
いま「ビジネスにデザインが不可欠」なのがよくわかるジョン・マエダのプレゼン