Categories: Surviving Design

自分のことは自分がよく知っている

デザイナーの能力には、お客様と一緒に答えを探すコミュニケーション能力が含まれます。しかし、「そんなことは自分でできる」「それより早く効く広告やアイディアを」とおっしゃる方もいらっしゃいます。予算や締め切りなど与えられた条件もありますが、効く広告やアイディアがどこにあるのかといえば、やはりお客様の頭の中にしかない、と考えています。デザイナーの力とは、お客様の頭の中にあるものに形を与えること、可視化することです。それは単純な「絵面を作る能力」ではなく「情報の本質を見抜く眼」と言えます。その為に限られた条件と時間の中でも、たくさんの情報や「思い」を伝えてほしいと考えています。ヒントは必ずその中にあります。

デザイナーに対して質問することに「専門家ではないから」と二の足を踏んだり、何を聞いたらよいかわからないという感じで、デザイナーを敬遠してしまう企業も多くあると思います。結論から言えば、的外れに思えてもわからないことは率直にデザイナーにぶつけた方がよいでしょう。確かにお寿司屋さんにはお寿司屋さんの、デザイナーにはデザイナーのプロフェッショナルな領域があり、言葉では説明しがたいノウハウがあります。それはどの分野においても尊重されるべきですが、逆に言えばすべての職業人はプロフェッショナルであり、デザイナーだけがプロではないのですから、仕事のスケールに応じて様々な批判や疑問に晒されて当然なのです。

■ デザイナーはアーティストではない

当たり前ですね。現代においてはアーティストの方が自分の仕事をきちんと言語化し、一般化する努力をしているようにすら思えます。私が主に関わる医薬分野のデザインでは、特に重要なことです。これまでデザインの制作過程というものは「プロとしての仕事の領域」をブラックボックス化して確保するとともに、こつこつとマウスをクリックして「完成」したものをクライアントに見せて「これでいいですか。ダメですか」とジャッジしてもらうような、ある種の上下関係を暗黙の裡に作っていました。それは告白したい異性を目の前において、完璧なラブレターを書こうとするような、いささか滑稽な作業です。

デザイナーとクライアントは同じ目的を共有する「パートナー」として、完成形ではなく過程においてこそ意見交換を多く行うことが重要です。「これとこの媒体を使って、この写真で」と決めてしまうのもよいですが、それより前に対話し問題点を共有することで、視点の広がりを確保できます。素早く作るということ。アイディアを共有するということ。いきなり結婚ではなくまずお友達から、ということですね。

「技術的な才能を持つ人たちはビジネスの言葉で語る必要があるし、逆に、事業の専門家たちはITを完全に理解しなくてはならない」
新たなリーダー像は、ITと事業運営とを経験した「ハイブリッドな職業人」(ジェローム・ブヴァ)

デジタルのお話ですが、デザインも同じです。

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