ベン・ホロウィッツはシリコンバレー屈指のベンチャーキャピタリストの一人です。世界で初めて商用化したウェブブラウザNetscapeを開発したマーク・アンドリーセンとともにAndreessen Horowitzを立ち上げ、FacebookやTwitterをはじめとするテクノロジー企業へ早期に投資し、巨額のリターンを得たことで知られ、また自身もCEOとしてLoudCloudとOpswareを創業し、Hewlett-Packardに16億ドルで売却することに成功した経歴の持ち主です。
本当に難しいのは、大きく夢見ることではない。その夢が悪夢に変わり、冷や汗を流しながら深夜に目覚めるときが本当につらいのだ。
ITスタートアップという現在もっとも夢がある業界の成功者が、自身の経験を基に会社経営の困難をつらつらと語った本です。ピーター・ティールの「ゼロ・トゥ・ワン」とは逆に、業界最先端のイノベーションにおける過酷なスピードと競争(ホロウィッツは自身を「戦時のCEO」と例えます)、予測できないアクシデントの連続という、華やかな業界の「苦く」「苦しい」現実を突き付けてきます。次々と降りかかってくる困難に心が何度も折れそうになりながらも前を向いて戦う姿勢は、ハリウッド映画のアクションスターのようです。
中盤からは創業経営者向けの指南よろしく、多くのCEOが口にしたがらないこと―社員のマネジメント(降格や解雇!)、会社のスケーリング、売却など―に関する具体的なアドバイスがあり、そちらの方が参考になるかもしれません。彼の言葉を借りれば、「会社経営に銀の弾丸(問題を一挙に解決する魔法)はない。鉛の弾丸を撃ち続けろ」です。
個人的にはベン・ホロウィッツを、その果てしない困難の中で、前に進ませた動機、根底にあるモチベーションを知りたいと思いましたが、それについては意図的なのか語られていませんでした(彼流に言えば、そういう本は「たくさんある」ということかもしれませんし、ティール流に考えるなら「戦っているうちに戦っている理由すらわからなくなってしまった」のでしょうか?)。パートナーと言えるマーク・アンドリーセンについて語っている部分も少なめで、二人の関係がどのようなものだったのか想像したくなります。
日本はシリコンバレーのように、IT系のスタートアップが活発ではなく、それはデザインがイノベーションを起こす発想が乏しいことにも関係がありそうです。デジタルと結びつけば、イノベーションが起こるというのは安易にすぎますが、とにかくアナログな発想が強い。
ちなみに原題はThe Hard Thing About Hard Things。しんどさが伝わってきますね。
HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか〈amazon〉