ピーター・ティールの「ゼロ・トゥ・ワン」を読みました

ピーター・ティールのスタンフォード大学における講義をまとめた「ゼロ・トゥ・ワン」を読みました。オンライン決済サービスPaypalを共同創業した人物であり、また投資家としてフェイスブックを始め、様々なスタートアップに対する投資を成功させ、現在もシリコンバレーで絶大な影響力を持つことから「ペイパル・マフィア」とも呼ばれる人々のうちの一人です。

「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」

本編を通して、繰り返されるこの問いはとても刺激的です。0から1を生み出すものをテクノロジー、1からn数へ向かうものをグローバリゼーションと定義し、新たなテクノロジーなきグローバリゼーションは不可能としています。
「完全競争下で利益を出す企業は存在せず、すべての収益は消滅する」として競争的な(競合が存在する)ビジネスモデルひいては社会のあり方すら否定し、資本主義経済の本質は、競合相手が全くいない独占企業を目指すべきとしています。
リーン・スタートアップ(計画的であるよりも状況にあわせ柔軟である事業モデル)の否定を始め、逆説的な言説で「えっ、本当にそうか」と思わせて先を読ませるのが実にうまい本です。ほとんど著者の哲学と化しているような「競争してはいけない」の論理が、ユニークです。

我々は生きていくうちに競争に慣らされ、それは自分の子供たちを見ていると、ほとんど人間の本能と結びつくもののようにも思われます。駆けっこをすれば他の子より速く走ろうとし、絵を描けば人に褒められようとします。そこでは既に序列を決める競争が始まっています。
しかし競争を人間社会の本質とまでみなすのは早計かもしれません。100mをどれだけ速く走れるのかということや一等賞をとること、さらには良い学校に入って、人が羨むような会社に就職することは「競技」としてはよいかもしれませんが、実は「ビジネス」や「幸福であるために必要なもの」ではないのかもしれません。

自分の人生やそれを包む社会をより良くするために、本当に競うべきは「賛成する人がほとんどいない、大切な真実を見つけること」―それは真の独創性とでも言い換えるべきでしょうか―ピーター・ティールの主張にはそのような部分があります。
久しぶりになかなか読ませる本でした。

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか〈amazon〉
ピーター・ティールが、日本の学生に語った10のこと〈WIRED〉
『ゼロ・トゥ・ワン』対談 賛成する人がいない、大切な真実とはなにか。 ピーター・ティール × 糸井重里