医療という業界柄というわけでもないのですが、「製品やサービスをデザインで選んだりしないよ」とおっしゃる方がいます。私も大いに賛成です。メディカル分野において、広告やタレントが素敵だったから製品を選んだと言われては、それを使われる患者さんもドキドキしますよね。ただデザインの真髄は、理性よりも感覚に、さらには無意識に深く訴えるものだとしたらどうでしょう。
年配の方が飲んでいたペットボトルが、著名なデザイナーがデザインしたもので、話の種にそう言ったところ、その方は笑いながら「別にデザインで選んだわけじゃないけどね」と言いました。私は「まさにそこが狙い通り」なのだとお伝えしました。
「美味しいから」「オレンジが好きだから」「何となく今の気分で」選んだものの裏側に、人間の感覚的な部分に訴えるアピールがサブリミナルのように刷り込まれていて、情報を整理することに長けたデザイナーは、それらを自在とまでは言わずとも、相当使いこなすことができるのです。我々は日常において理性で行動を「選んでいる」つもりが、極めて感覚的、無意識なものに「選ばされている」ことは、想像以上に多いのです。
わかりやすいところに、suicaの自動改札機のデザインがあります。
JR東日本が原型となる自動改札機をテストしていたのですが、技術的には現在のものとほとんど変わらない機械にも関わらず、きちんと通過できる人は多くなかった。当てる場所さえ見当がつかず、ちょっとカードを止めるコツなど誰もわからなかった。
様々なテストを重ねた結果、改札機の読み取り角度を「手前に少し傾いている光るアンテナ面にする(角度は13.5度傾いている)」。それだけで多くの人がちゃんと当ててくれることがわかったのです。今、改札機を通るのにそんなことを意識する人はいませんね。
山中俊治の「デザインの骨格」あらためてSuicaの話でもしようか
またiphoneは一般的に「デザインが優れている」「オシャレ」なものとして認識されていると思います。そこにiphoneが爆発的にヒットした要因を見るのが普通です。
しかし、appleの真髄は、所謂表面的に考えられている「見てすぐわかるシンプルさと、洗練された美しいビジュアル(プロダクトだけではなく、ブランドイメージ全体として構築されている)」ばかりではなく、内面から考える「わかりやすく、かつ直感的に気持ちよく使用できるインターフェイス(それが当たり前になりすぎて、デザインされていることすら忘れてしまうほどの。またプロダクトではなく、プラットフォームから人が社会と接する「経験」をデザインするという発想)」を驚異的なレベルで両立させている点です。iphoneが使用者を離さないのは人に例えるならば、まるで30年付き添ったパートナーのように「痒い所に手が届く」「細かいところに『黙って』気が利く」からなのです。ついでに「美人」なのですから、多くの人にとって魅力的と言わざるをえません。ときどき、古女房の愚痴を言うように(?)文句を言う人はおりますが、iphoneから乗り換えましたという人はほとんどみかけません。
■ 日常でデザインを考える
優れたデザインは、人の無意識レベルにアピールします。では、本当に自分に必要な製品なりサービスを選ぶというのは、どういうことでしょう。訓練された技術に素人が立ち向かうのは、どんな分野においても難しいものです。最近はテレビを見る機会が減った人も多いかもしれませんが、所謂広告業界ではない人も、このCMは「〜が関わっている」ことを知るのは、良いことではないでしょうか。誰も大声で言わないだけで、隠されたりしていません。ちょこっとそういった雑誌を立ち読みするくらいでも、ネットで検索するだけでも。
作り手の顔が見えるということは、製品やサービスの特性をより客観的に把握する道標にきっとなりうるでしょう。