デザイナー出身ではない著者が社会人経験を経て、海外の著名なデザインスクールに留学して学んだことを、論理的かつ体系的に説明した本です。海外では、MBAを取得するような優秀なビジネスマンがデザインを学ぶことは、より一般的なことです。問題を感覚的に処理せず、論理的に考えることができるのは、むしろデザイナー出身ではない方の強みではないでしょうか。デザイン思考について、私が今まで読んだこの類の本の中では、もっとも具体的かつ丁寧に説明されていると思います。
その困難についても率直に触れられており、デザイン思考において重要なこととされる職種や背景が違う人達との協業についても、ストレスや軋轢があるからこそ創造的になれるということも触れられており、前向きに努力しようという気持ちになりますね。
日本に古くからあるアイディア発想法であるKJ法を考案した川喜田二郎氏の言葉を引きながら、「直感的に問題を処理する能力に優れ、それ故に安易に直感にぶらさがる」日本人の弱点についても触れられており、自身の経験を踏まえながら耳が痛い話でもあります。
■ 日本人の問題解決法の問題
日本人の発想は二極化しがちです。どなたでも会議などで経験があるのではないかと思いますが、問題が1+1くらい明晰ならば理詰めで決まりますが、課題が少し複雑になると、なあなあになって直感というより情緒的に決まりがちです。よく会議は根回しと言いますが、人間関係を含め会議の前に決まってしまっているということもよくあります。
デザイン思考とは、体系的な手法を使用し、チームワークにおいてアイディアを創るものです。論理と実感・体験を基盤として、インスピレーションを引き出すものだと言えますので、根回ししては意味がありません。論理に頼りすぎても失敗、直感に頼りすぎても失敗なのだと言えそうです。
また個人的な印象として、資料の山とにらめっこしたり、ネットサーフィンをして情報を集めることは100人中100人の人が行うと思います。しかし、現場に足を運んだり、経験者の話を聞いたりすることは、特別なスキルがいるわけではないのに100人中1人くらいしかやらないのではないでしょうか。デザイン思考においてもフィールドワークの重要性は強調されており、前者が誰しもが行う以上、結果に差を生むのは後者であると言えます。
本書においてはデザイン思考が魔法のような問題解決策ではなく、多くの優れたツールと同様、運用する人間に依存するものであることも示唆されており、マニュアル通りではなく、実情に合わせてモデルを調整していく応用力(ある種のしたたかさ?)も必要でしょう。それでも組織や職場に「今までと違う何か=イノベーション」が必要だと考えている方々は、一読の価値があるのではないでしょうか。
■ Pg独自のクリエイティブプロセスのモデル 仮説と検証を繰り返すなかでインスピレーションが育まれる(©Pg inc.)
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