面白いタイトルですね。
iPS細胞を開発しノーベル賞を受賞した山中伸弥教授と、京セラやKDDIを創業し、日本航空の再建などに携わった稲盛和夫氏の対談本です。お二人のご縁は、稲盛氏が創設した京都賞(ノーベル賞の前哨戦とも言われる)を山中伸弥教授が受賞するより以前、山中教授いわく「まだ無名の研究者だった頃」に遡るそうです。
日本屈指の経営のカリスマと、ノーベル賞を受賞した研究者。しかし見方を変えれば、sonyやHONDAに連なる日本のスタートアップと、医療や医薬、新しいものを生み出す際立った創造性の話として楽しく読むことができました。
稲盛さんの父が印刷会社を経営していたということや、山中教授の父も中小企業の経営者でその背中を見て育ったという話もあり、自分にも男の子がいるのでなんだか身近なような、とても遠い話のような不思議な距離感で読みました。世の中ではシリコンバレーを中心とした話ばかりで、創業者に人格的な期待をしなくなりましたが、対談されているお二方は、良識も持ち合わせていらっしゃいます。
稲盛さんは利他の精神や不断の努力の大切さを繰り返し説いており、メディアによってはある種の精神論・宗教論とも言われます。ピーターティールは「成功するスタートアップは、外の人が見逃していることを正しく信奉している」「マイルドなカルト」と語っていましたが、まさにその通りですね。
稲森さんのお話を読むと、生真面目な日本人にはシリコンバレーらしいやり方やメンタリティは持てないのではないか、とも思います。ただ、本書でも触れられていますが、「なんでもあり」で勝負してくる海外との競争をどのように戦っていくかという問題もありますが。
山中教授は聞き手に回りながらも、随所で人間、研究者としての考え方を提示しており、専門的な話をわかりやすく簡潔に表現していたのが印象的です。やはりどんなに難しい概念でも、一般人にわかる言葉で説明できないといけないと自戒いたしました。哲学の根底には、臨床医としての挫折、医師・研究者としての使命感があり、畏れ多くも人間として共感する部分がありました。
仕事をしていると「自分ばかり真面目にやって馬鹿らしい」とか「もっと効率のいいやり方があるんじゃないか」という自問自答があると思います。しかし、手を止めるのではなく続けること、手を動かしながら考えることが大切だと思います。
突き抜けるためには立ち止まらないように。賢く生きてきたお二人ではないようですが、書籍のタイトルは稲盛さんのフィロソフィーに近いですね。英語では「Stay hungry, stay foolish」がしっくりきます。横文字にするとカッコイイんですが、創業するような人間はだいたい賢いというよりバカ、かもしれません。