スペースX、ロケット打ち上げ成功 歴史的発射施設を使用(CNN.co.jp 2017.2.20)
スペースXがロケット打ち上げに成功しました。イーロン・マスクは「火星に人類を送ること」をコンセプトにスペースXを立ち上げました。他の誰にも真似ができないような壮大でユニークな発想です。彼について書かれた本を読むと、その頭脳の明晰さや独創性より、人間性の激しさ、執念にも似た不屈の闘志に圧倒されます。きっとイーロン・マスクは「自分がやらなければ誰がやる」と考えているのでしょう。
「アイディア」とは、マスクのような創造力や独創性、つまり「誰も見たことがないようなもの」のことだと思われがちです。しかし人間の発想は、一般に考えられているよりもずっと類型的なものです。イーロン・マスクの発想は素晴らしい(凄まじいとも言えますが)。しかし類型的であることは悪いことではない、と言っておく必要があるでしょう。
物事の考え方には順序があるように、アイディアにも順序がある
他人の(それどころか自分のものですら)無意識的なレベルで行われる行動や思考を読み解くことは難しい。しかし、逆にあるテーマについて1日考えた人は、1時間しか考えなかった人が思いついたことをほとんど理解できるでしょう。子供の悪巧み。部下が失敗した理由―それらが透けて見えるようによくわかるのは、「自分が同じことを考えたから」です。
自分のアイディアは、他の人が既に考えたものである。同じ人間が考えるのだから、ある意味、これは当然のことと言えます。その意味で、アイディアを10本考えた人より、100本考えた人はより希少性がある発想にたどり着きます。同じルートを辿っても更に先に進める、ということですね。人が他人のアイディアに共感するのは、それが思いもよらなかったことだったというより「自分が考えていたことの先を行っている」からです。
人の思考は類型化しやすい―さらに言うならば、人はそれぞれ独創性も持つが、それを自分で意識して表現することはさらに難しい。
イーロン・マスクは子供の頃からSF文学が大好きだったそうです。彼の発想はまさにSFに対して「自分ならどうするか」という発想を地でいっている部分があります。火星に行くというアイディアは一部ではすでに共有されていたもので、我々の誰しもが一度は空想することでしょう。それを多くの人に実現可能(かもしれないと思わせる)水準まで持っていく不断の努力に、真の偉大さがあると言うべきです。
アイディアとは遠くに打ち上げるロケットのようなものです。強いアイディアは一度「常識」という引力を振り切る必要があります。
しかし、市場における優れたアイディアとは往々にして、「常識という引力との相対的な関係において、適切なバランスで衛星軌道に乗った表現」と言うべきもので、突拍子もないものではないのです。遠くに打ち上げようとして、行方不明になるアイディアもたくさんあります(爆発するものまで!)。その意味で、全てのアイディアが火星まで行く必要はないし、必要とされる場所で適切な効果を果たすことが重要です。
イーロン・マスク 未来を創る男 アシュリー・バンス (著), 斎藤 栄一郎 (翻訳)(amazon)